韓国ドラマを見ていると、病院の中にある葬儀場や、遺影の前で深くお辞儀をする人々、白い菊が飾られた祭壇など、日本とは少し違った葬儀の風景が登場することがあります。
韓国の葬送文化は、朝鮮王朝時代に社会の規範となった儒教の影響を強く受けてきました。
一方で、仏教やキリスト教などさまざまな宗教も広まり、さらに都市化や少子高齢化によって、昔ながらの土葬中心の文化から火葬・納骨・自然葬へと大きく変化しています。

今回は、そんな韓国の「死者を送る文化」が、昔から現在までどのように変わってきたのかを紹介します。
韓国の伝統的な葬送文化と儒教
韓国の伝統的な葬送文化を語るうえで欠かせないのが、儒教です。
特に朝鮮王朝時代には「孝」の思想が重視され、親や祖先を大切にすることが社会の重要な価値観となりました。
亡くなった家族を丁寧に葬り、その後も祖先を祭ることは、子孫が果たすべき重要な役割と考えられていたのです。
韓国国立民俗博物館によると、朝鮮時代には「三年喪」が孝行の基本とされ、喪に服している間、故人のために食事を供えるなど、非常に長期間にわたる葬送儀礼が行われていました。
現在の韓国からは想像しにくいほど、昔の葬送文化は長く、そして複雑なものでした。
「三年喪」という長い喪の期間
朝鮮王朝時代の葬送文化を象徴するのが、삼년상(サムニョンサン/三年喪)です。
これは文字通り3年間にわたって喪に服すという考え方です。
故人を埋葬して葬儀を終えれば終わり、というものではありません。
子孫は一定期間、喪服を着用し、故人を悼みながら生活しました。
場合によっては家の近く、あるいは墓のそばに喪屋を設け、故人に朝晩の食事を供えることもありました。
現在の「数日間の葬儀」と比べると、その違いに驚かされます。
祖先を祭る「祭祀」も葬送文化の一部
韓国の葬送文化では、亡くなった瞬間だけでなく、その後の「祖先との関係」も重要でした。
その代表が、제사(チェサ/祭祀)です。
祖先に食事や酒などを供え、家族が集まって故人を追悼します。
朝鮮時代には、複数世代の祖先を祭ることが儒教的な「孝」の重要な実践とされ、命日や旧正月、秋夕などにも祭祀が行われました。
ただし、現在では祭祀を簡略化したり、行わなかったりする家庭も増えています。
つまり韓国でも、昔ながらの「祖先を祭る文化」がそのまま残っているわけではなく、現代の生活に合わせて変化しているのです。
韓国の伝統的な墓と風水
昔の韓国では、遺体を土に埋葬する土葬が重要でした。
そのため、山などに墓を造る文化が発達しました。
韓国の山を歩いていると、芝生に覆われた丸い丘のような墓を見かけることがあります。
これは、봉분(ポンブン/封墳)と呼ばれる伝統的な墓の形です。
また、墓をどこに造るかということも非常に重要でした。
儒教的な祖先観に加えて風水思想も影響し、「良い場所に祖先の墓を造ることが子孫にも影響する」と考えられてきました。
そのため、墓地を選ぶ際に風水を専門とする人に相談することもありました。
仏教の影響で火葬も行われてきた
韓国の葬送文化は、儒教だけで形成されたものではありません。
朝鮮王朝以前には仏教も大きな影響力を持っており、火葬も行われていました。
その後、朝鮮王朝で儒教が国家的な理念として重視されるようになると、儒教的な埋葬文化が強くなっていきました。
つまり韓国の歴史を振り返ると、仏教的な火葬と儒教的な土葬が時代によって異なる位置づけを持ってきたことが分かります。
近代化で葬儀の形が大きく変化
20世紀に入ると、韓国社会の近代化と都市化によって葬送文化も変わっていきました。
かつては自宅を中心に家族や親族が葬儀を行っていましたが、現在では病院に併設された葬儀場や専門の葬儀施設を利用することが一般的です。
葬儀場には、빈소(ビンソ/殯所)と呼ばれる弔問スペースが設けられ、故人の遺影などを飾り、家族が弔問客を迎えます。
そして現在の韓国の葬儀を象徴するのが、삼일장(サミルジャン/三日葬)
です。一般的に3日間を基本として葬儀を行い、最後に「발인(パリン/発引)」と呼ばれる出棺を行います。
昔の長期間にわたる葬送儀礼と比べると、非常に簡略化された形式になっています。
韓国民族文化大百科事典でも、現代では従来の複雑な葬送儀礼が大きく簡略化され、葬儀場や葬儀サービスを利用する形へと変化したことが説明されています。
土葬から火葬へ
韓国の葬送文化で特に大きく変化したのが、埋葬方法です。
かつては土葬が伝統的な方法でしたが、現在では火葬が圧倒的に一般的になっています。
背景には、
- 都市化
- 墓地不足
- 土地の問題
- 核家族化
- 少子高齢化
- 墓を管理する家族の負担
などがあります。
広い土地を必要とする土葬墓を何世代にもわたって維持するより、火葬後に納骨堂などへ安置するほうが、現代の生活に適しているという事情もあります。
火葬後の遺骨を納める、봉안당(ポンアンダン/奉安堂)と呼ばれる納骨施設も広く利用されています。
さらに近年では、樹木など自然の中に遺骨を埋葬する自然葬も選択肢となっています。
宗教によって葬儀の形も違う
現代の韓国では、葬儀の形式も宗教によってさまざまです。
儒教的な伝統を受け継いだ葬儀では、故人への礼や祖先を敬う考え方が重視されます。
仏教式では僧侶による読経や焼香などが行われます。
一方、キリスト教徒も多い韓国では、プロテスタントやカトリックの葬儀も珍しくありません。
キリスト教式では、祈りや聖書朗読、賛美歌、ミサなどが中心となります。
そのため、韓国の葬儀を「焼香してお辞儀をするもの」と一括りにはできません。
宗教によって、献花や黙祷など異なる形で故人を悼むことがあります。
韓国の葬儀で見られる「弔問文化」
韓国の葬送文化で特徴的なのが、문상(ムンサン/問喪)と呼ばれる弔問です。
友人、職場の同僚、知人などが葬儀場を訪れ、故人に弔意を表し、遺族にお悔やみを伝えます。
香典にあたる「부의금(プウィグム/賻儀金)」を渡すのも一般的です。
そして韓国では、弔問客が葬儀場で食事をすることも珍しくありません。
遺族と弔問客が同じ場所で食事をしながら故人を偲ぶというスタイルには、葬儀を「故人を送るだけの儀式」ではなく、人と人とのつながりを確認する場として捉える韓国社会の一面も表れています。
現在の韓国では「死者との向き合い方」も変化
昔の韓国では、死後も長期間にわたって故人を弔い、子孫が祖先とのつながりを維持することが重要でした。
しかし現在では、葬儀そのものが簡略化され、火葬や納骨堂、自然葬など、より現代の生活に合った方法が選ばれるようになっています。
韓国国立民俗博物館も、時代や生活環境の変化によって埋葬や火葬を含む葬送儀礼が簡素化している一方、故人を悼むという本質的な意味は現在にも受け継がれていると説明しています。
つまり韓国の葬送文化は、「伝統が消えた」のではなく、「形を変えながら残っている」と考えると分かりやすいでしょう。
儒教から受け継いだ祖先への敬意、仏教やキリスト教などの宗教文化、そして現代の都市生活。
これらが重なり合って、現在の韓国独特の葬送文化が形成されています。
韓国ドラマに登場する葬儀のシーンも、こうした背景を知ってから見ると、遺族の行動や弔問客の振る舞いがより深く理解できるかもしれません。
