
日本でも去年末辺りからクマのニュースが世間を騒がせていますが、韓国にも野生のクマがいることをご存じでしょうか。
韓国の山を歩いているとクマに出会う可能性がある……という話を聞くと少し驚くかもしれません。実際、韓国では現在も野生のクマが生息しており、特に智異山(チリサン)を中心に「반달가슴곰(パンダルカスムゴム)」と呼ばれるツキノワグマの保護・復元が進められています。
一方で、かつて朝鮮半島には現在より多くのクマが生息していました。
今回は、韓国のクマについて、種類や特徴、歴史、復元事業、現在の生息状況まで紹介します。
韓国にいるクマは何という種類?
現在、韓国の野生で確認されている代表的なクマが「반달가슴곰(パンダルカスムゴム)」です。
日本語では「ツキノワグマ」、英語では「Asiatic Black Bear」と呼ばれます。
学名は「Ursus thibetanus」で、韓国に生息する個体群は「Ursus thibetanus ussuricus」とされています。
その最大の特徴は、黒い体にある白いV字型の胸の模様です。
この模様がまるで半月のように見えることから、韓国では「반달가슴곰」、つまり「半月の胸を持つクマ」という名前で呼ばれています。
韓国では環境部によって「멸종위기 야생생물Ⅰ급(絶滅危惧野生生物Ⅰ級)」に指定されているほか、天然記念物第329号にも指定されています。
昔は朝鮮半島の広い範囲に生息していた
現在は「韓国の山に少しだけ残っているクマ」というイメージがありますが、昔からそうだったわけではありません。
ツキノワグマは、かつて朝鮮半島の広い範囲に生息していました。
国立生物資源館の資料によると、ツキノワグマは朝鮮半島全域に生息していた一方、もう一種類のクマであるヒグマ(불곰)は金剛山(クムガンサン)以北での生息が報告されています。
つまり、歴史的な朝鮮半島には現在の韓国よりも多様なクマが存在していたのです。
しかし20世紀になると、状況が大きく変わります。
なぜ韓国のクマは減少した?
ツキノワグマの減少には、複数の原因が重なりました。
日本統治時代の捕獲、朝鮮戦争による自然環境の荒廃、その後の急速な工業化・都市化による森林の減少、さらに密猟などが大きな要因となりました。
特にクマの胆のうである「熊胆(ゆうたん)」を利用する文化も、乱獲につながったとされています。
こうした影響によって、韓国国内のツキノワグマは極端に数を減らしていきました。
1980年代には、すでに野生の個体を見ること自体が非常に珍しい存在になっていました。
一度は「韓国から消える」ところまで追い込まれた
韓国のツキノワグマをめぐる象徴的な出来事が2000年です。
この年、テレビ局の撮影によって智異山国立公園に野生のツキノワグマが生息していることが確認されました。
当時、智異山に残っていた個体はわずか数頭程度と推定されていました。
そこで韓国政府は、ツキノワグマを単に保護するだけではなく、個体数を増やして野生復帰させる「復元事業」を進めることになります。
2004年から始まった智異山のツキノワグマ復元
本格的な復元事業が始まったのは2004年です。
ロシア沿海地方などから、韓国に生息していた個体群と遺伝的に近いツキノワグマを導入し、智異山国立公園周辺へ放しました。
2004年にはロシアから6頭が導入され、放獣されています。
その後、放されたクマたちが野生環境の中で繁殖するようになりました。
2018年には、自然状態で個体群を維持できる目安とされる50頭を超え、復元事業は大きな転換点を迎えます。
さらに生息範囲も智異山だけにとどまらず、周辺地域へと広がっています。
現在は100頭近くまで増加
復元事業によって、韓国のツキノワグマは着実に増えています。
2026年7月の韓国メディア報道では、智異山などの野生下に生息するツキノワグマは約96頭と推定されています。
また、2026年3月の報道では、個体数は100頭に迫っているとされています。
2004年に始まった復元事業によって、数頭しか残っていなかった韓国の野生ツキノワグマが、現在では100頭近くまで増えたことになります。
これは韓国の野生動物保全を語るうえでも非常に象徴的な事例です。
ツキノワグマは何を食べる?
韓国のクマも日本のクマ同様、肉ばかり食べる動物ではありません。
ツキノワグマは雑食性で、植物性の食べ物をかなり多く利用します。
韓国のツキノワグマでは、ドングリ、木の実、果実などが重要な食料となっています。
特にドングリは好物として知られています。
そのほか、昆虫や小動物なども食べます。
つまり、韓国の山に広がる豊かな森林は、ツキノワグマにとって重要な食料庫でもあるのです。
木登りも得意なクマ
ツキノワグマは大型のクマですが、意外にも木登りが得意です。
森林の中で木の実などを探す際には、その能力が役立ちます。
また泳ぐこともでき、基本的には森林を中心に生活します。
韓国では主に山地の森林に生息しており、特に木の実や果実が豊富な場所が重要な生息環境となります。
冬になると冬眠する
韓国の冬は寒いため、ツキノワグマも冬眠します。
岩穴や大きな木の割れ目などを利用して冬を過ごし、春になると再び活動を始めます。
韓国の資料では、秋から冬にかけて冬眠に入り、春に冬眠から目覚めるとされています。
秋にドングリなどをたくさん食べて栄養を蓄えることは、冬を乗り越えるためにも重要です。
韓国ではクマと人間の接触も増えている
個体数が増えることは、復元事業の成功を意味する一方、新たな課題も生み出します。
クマの生息範囲が広がれば、人間の生活圏に近づく可能性も高くなるからです。
実際、2026年には農家の養蜂場に繰り返し侵入し、蜂蜜を食べていた雌のツキノワグマが捕獲され、保護施設へ移された事例がありました。
この個体は過去にも養蜂農家で被害を繰り返しており、最終的に野生に戻すのではなく保護施設で管理されることになりました。
つまり韓国では現在、「クマを増やす」だけではなく、「増えたクマと人間がどう共存するか」という段階に入っているのです。
智異山でクマに遭遇したら?
韓国の山を観光や登山で訪れる人にとっても、これは気になるところです。
もし野生のツキノワグマに遭遇した場合、近づいたり、エサを与えたり、写真を撮ろうとして刺激したりするのは避ける必要があります。
2026年の韓国国立公園公団の案内でも、クマに遭遇した場合は刺激せず、クマから距離を取ることが呼びかけられています。クマが自ら離れない場合には、背を向けず、視線をそらさずに、静かに後退する方法が案内されています。
「かわいいから近づいて写真を撮る」という行動は絶対に避けたいところです。
韓国のクマは「復活した野生動物」
韓国のツキノワグマは、単なる珍しい野生動物ではありません。
かつて朝鮮半島の広い範囲に生息していたものの、人間による捕獲や環境の変化によって激減し、一時は韓国国内で絶滅が強く危惧される状態になりました。
それが2004年から始まった智異山での復元事業によって、現在では100頭近くまで増えています。
一方で、生息地の拡大によって農業被害や人間との接触という新しい問題も生まれています。
そのため韓国のツキノワグマ復元は、「絶滅から救う」という段階から、「野生のクマと人間が同じ地域でどう暮らしていくか」という次の段階へ進んでいると言えるでしょう。
韓国を訪れた際に山や国立公園を歩くときは、そこがかつてクマたちが暮らしていた場所であり、そして現在も再び野生のクマが暮らしている場所だということを、少し意識してみると面白いかもしれません。
