韓国でクジラを食べる文化があることをご存じでしょうか。
韓国南東部に位置する蔚山(ウルサン)は、かつて捕鯨産業で栄えた街として知られ、現在も鯨肉を提供する飲食店が集まる地域です。なかでも南区の長生浦(チャンセンポ)は、韓国の鯨食文化を語るうえで欠かせない場所となっています。

日本でも一部の地域で鯨料理が親しまれていますが、韓国ではどのような料理が食べられているのでしょうか。蔚山へのアクセスや鯨食の歴史、現在の捕鯨事情とともに紹介します。
蔚山はどこにある?ソウルからのアクセス
蔚山は韓国の南東部、釜山の北側に位置する広域市です。自動車産業や造船業などで知られる工業都市である一方、海に面した地域には独自の食文化や歴史が残されています。
ソウルから訪れる場合は、高速鉄道KTXを利用して蔚山駅まで移動する方法が便利です。所要時間は列車によって異なりますが、おおむね2時間前後が目安となります。
注意したいのは、KTXの蔚山駅が市街地の中心部から離れた場所にあることです。駅から市内中心部へはバスやタクシーなどを利用します。
鯨食文化を体験するなら、南区にある長生浦を目指しましょう。鯨肉料理店のほか、長生浦鯨博物館や鯨文化村などの関連施設が集まっており、食事と観光を組み合わせて楽しめます。
韓国の代表的な鯨料理
韓国語で鯨肉は「고래고기(コレゴギ)」といいます。蔚山では、さまざまな部位を食べる文化が受け継がれてきました。
鯨肉の盛り合わせ(고래고기 모듬)
初めて鯨料理を試すなら、複数の部位を味わえる盛り合わせが代表的な選択肢です。
赤身だけでなく、皮や脂肪の多い部分、内臓などが一皿に盛られることもあります。部位によって色や食感、風味が大きく異なるのが特徴です。
食べ方も比較的シンプルで、塩や韓国の魚醤系のたれにつけ、ニンニクや野菜などと一緒に味わいます。鯨肉特有の香りや食感があるため、部位ごとの違いを確かめながら食べるのも楽しみ方のひとつです。
オベギ(오베기)
蔚山の鯨料理を語る際によく登場するのが「オベギ」です。
一般的には鯨の尾の部分を蒸した料理として知られ、塩やたれをつけて食べます。弾力のある食感が特徴で、地元の伝統的な鯨料理のひとつです。
鯨肉の刺身(고래고기 회)
鯨肉を生で食べる料理もあります。赤身の部分は牛肉に似た見た目をしており、加熱した料理とは異なる食感や風味を楽しめます。
ただし、提供される部位や調理方法は店によって異なります。生食に抵抗がある場合は、蒸した料理や煮込み料理があるか確認するとよいでしょう。
鯨肉の煮込み・クッパなど
鯨肉は盛り合わせや刺身だけでなく、煮込み料理などに使われることもあります。蔚山南区では、鯨肉料理に加えて、海産物を使ったビビンバなどの地域メニューも紹介されています。
なお、鯨肉は一般的な韓国料理というより、特定の地域で伝統的に食べられてきた食材です。韓国を訪れればどこでも気軽に食べられるわけではなく、特に蔚山や慶尚北道の浦項(ポハン)など、歴史的に鯨食との結びつきが強い地域で知られています。
蔚山・長生浦で鯨料理を味わえるおすすめ店
長生浦には鯨肉を専門に扱う飲食店が集まっています。初めて訪れるなら、料理の種類や予算を比較しながら店を選ぶとよいでしょう。
元祖コレマッチプ(원조고래맛집)
住所:蔚山広域市南区長生浦コレロ193付近
電話:052-261-5060
長生浦の鯨料理店として紹介されている老舗のひとつ。鯨肉の盛り合わせをはじめ、ユッケやスユク(ゆで肉)などを味わえる店です。部位ごとの違いを楽しみたい人や、伝統的な鯨料理を体験したい人に向いています。
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コレハルメチプ(고래할매집)
住所:蔚山広域市南区長生浦洞
電話:052-258-8081
鯨肉専門店として知られ、韓国観光公社の観光情報でも紹介されています。赤身を細切りにしたユッケや、尾の部分を使ったオベギ、皮や内臓などをゆでたスユクといった料理が特徴です。
さまざまな部位を食べ比べてみたい人は、盛り合わせの内容を確認して注文するとよいでしょう。
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ミミジョン(미미정)
住所:蔚山広域市南区長生浦コレロ221
電話:052-261-6702
鯨肉料理のほか、刺身やムルフェ(水刺身風の冷たい料理)なども扱う飲食店です。鯨肉の盛り合わせ、スユク、鯨肉の煮込みなどがメニューに掲載されています。
鯨肉を試してみたいものの、ほかの海鮮料理も楽しみたいという人にとって、選択肢の多い店といえそうです。盛り合わせはサイズによって価格が異なるため、人数と予算を考えて注文しましょう。
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チョンヘ・コレ専門店(청해고래전문점)
住所:蔚山広域市南区長生浦周辺
電話:052-269-5153
鯨肉の盛り合わせに加え、鯨肉を使ったビビンバやドゥルチギ(炒め煮風の料理)なども紹介されている店です。刺身やゆで肉とは違った食べ方を試してみたい人は、こうしたアレンジ料理にも注目してみてください。
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※店舗の営業状況やメニュー、価格は変更されることがあります。訪問前に最新情報を確認してください。また、鯨肉は希少で価格が高めのメニューもあるため、注文前に金額と盛り合わせの人数目安を確認しておくと安心です。
韓国ではなぜ鯨食が有名なのか?
韓国の鯨食文化には、長い歴史があります。
蔚山の大谷里(テゴンニ)にある盤亀台(パングデ)岩刻画には、クジラや捕鯨の様子を描いたと考えられる図像が残されています。先史時代から、この地域の人々がクジラと関わってきたことを伝える貴重な資料です。
近代になると、蔚山の長生浦は捕鯨基地として発展しました。19世紀末からロシアや日本の捕鯨活動がこの地域に進出し、日本による植民地支配期を経て、戦後には韓国の捕鯨産業が展開されていきます。
特に1960~70年代には捕鯨が盛んになり、鯨肉は地域の食卓を支える食材のひとつでした。当時は牛肉や豚肉などが十分に手に入りにくい時代もあり、鯨肉が身近な動物性たんぱく源として食べられた背景があります。
捕鯨によって港が栄え、漁業関係者だけでなく地域の飲食店や商店などにも経済的な恩恵が広がりました。そのため、長生浦における鯨肉は単なる食材ではなく、地域の暮らしや記憶と結びついた存在でもあるのです。
現在も長生浦には鯨肉料理店があり、鯨博物館や鯨文化村では捕鯨の歴史や当時の生活を知ることができます。蔚山の鯨食が有名なのは、こうした歴史的背景と地域文化が今も受け継がれているためです。
韓国の捕鯨は現在どうなっている?
かつて盛んだった韓国の商業捕鯨は、現在も自由に行えるわけではありません。
韓国は国際捕鯨委員会(IWC)に加盟しており、1986年以降、商業目的の捕鯨は禁止されています。そのため、昔のように鯨を積極的に捕獲して肉を流通させることはできません。
では、現在の韓国で鯨肉が提供されているのはなぜでしょうか。
大きなポイントとなるのが、漁網などに偶然かかってしまう「混獲」です。韓国では、こうした偶発的な捕獲によって得られた鯨類が、一定の法的手続きを経て流通する場合があります。ただし、すべての鯨類が自由に販売できるわけではなく、種や状況に応じた規制が設けられています。
また、違法な捕獲や流通が問題となることもあり、鯨肉の取引は保護政策と地域の伝統文化の間で難しい課題を抱えています。
鯨肉を食べる文化を残したいという地域の思いがある一方、鯨類の保全や生態系への配慮も欠かせません。現在の蔚山の鯨食文化は、過去の捕鯨産業をそのまま続けるのではなく、歴史を伝えながら未来のあり方を考えていく段階にあるといえるでしょう。
蔚山で鯨食文化に触れてみよう
蔚山の鯨食文化は、珍しい料理を味わうだけでは理解しきれない奥深さがあります。先史時代の岩刻画から近代の捕鯨産業、そして現在の資源保護をめぐる議論まで、クジラと人間の関係が長い時間をかけて形づくられてきたからです。
長生浦を訪れれば、鯨肉料理を味わうだけでなく、博物館や鯨文化村を通じて、かつての港町の暮らしにも触れられます。
韓国の食文化をより深く知りたい人にとって、蔚山は歴史と食、そして環境問題を一緒に考えられる興味深い旅先です。
