文化

韓国の伝統行事「チュソク(秋夕)」とは

毎年秋になるとYouTubeなどで薄い水色やピンク色の民族衣装(韓服)を身にまとった芸能人のグリーティング映像が流れるのをご覧になった方も多いのではないでしょうか?

これは韓国で旧正月と共に二大国民的行事である추석チュソク(秋夕)を祝う為のものです。

秋夕チュソクとは

もともとは月が最も明るく輝く旧暦の8月15日に行われた五穀豊穣を祈る農業のお祭りだったと言われていて、紀元356年からの新羅時代にはその原型があったと言われています。

また、秋夕には祖先を崇拝する儀式も一緒に行われる為、日本で8月に行われる「お盆」と旧暦8月15日の中秋の名月(十五夜)を足したような日と言っていいでしょう。

この日は韓国の祭日である名節の中でも最も重要な日とされていて、秋夕当日と前後1日ずつが祝日となり、離れて暮らす家族が集って過ごします。そのため、日本のお盆のように休業する店が増え、交通機関が混雑する事でも有名です。

秋夕は旧暦なので、現在使われているカレンダー(グレゴリオ暦)上では毎年日付が変わります。

2021年の秋夕は9月21日(火曜日)で前後も祝日のため9月18日〜9月22日までは5日間の大型連休になります。

秋夕にはどんな事をするの?

秋夕が近づき、連休に入ると、離れて暮らす親戚一同が集まってきます。

송편 만들기ソンピョン マンドゥルギ(松餅作り)

秋夕の前日には一族の女性が集まり松餅ソンピョンを作る風習があります。

松餅ソンピョンはうるち米の粉を練ったお団子にあずきや胡麻、砂糖、栗などを混ぜ、松の葉を敷いた蒸し器で蒸した伝統菓子です。

きれいに作れれば「可愛い子供が生まれる」「結婚相手に恵まれる」などのいわれも。

ただし、最近では既に作られた状態でパック売りされているものも多く、松餅ソンピョン作りの風習も徐々に簡略化されているものと考えられます。

차례チャレ(茶礼)

秋夕の朝には祖先を祀った祭壇を作り、新穀で作られた酒や柿、栗などの秋の農作物を茶禮床チャレサン(お膳)に供え、新しくあつらえた韓服かスーツ姿で祭壇の前で深くお辞儀をします。

これは韓国の法事である祭祀を簡略化した茶禮チャレと呼ばれる行事です。

성묘ソンミョ(省墓)

秋夕当日には一族揃って先祖のお墓参りをして、おでこを地面につけて深くお辞儀します。

一族総出で墓の周りの雑草を抜く伐草ポルチョをしてから祭祀を行う場合もあれば、秋夕の一ヶ月ほど前に一度、墓所を訪れて予め伐草ポルチョを済ませる場合もあるようです。

朝鮮半島の伝統的なお墓。

各地に伝わる民俗遊び

お墓参りまで済ませた後は、一族で団欒して過ごすほか、土地土地で伝統的な催し物が開かれます。

씨름シルムという韓国相撲が行われたり、全羅道では강강술래カンガンスルレという女性たちの円舞、農楽ノンアクと呼ばれる五穀豊穣を祈る舞踊・演奏が行われるなど様々。

カンガンスルレ
農楽(ノンアク)

余談ですが、このサイトのトップの画像も農楽です!

筆者

秋夕の前後は街中が一変

秋夕が近づくと、百貨店ではギフトセットが売られ始め混雑します。

また、連休に入ると高速道路は大渋滞、KTXなど地方に向かう鉄道も駅に人が溢れ返ります。

KTX

以前、ママチャリで韓国縦断した際に農村や田舎町もたくさん通りましたが、見かけたのは大半がお年寄り。若者の都市部への流出は日本以上だと思います。
その分帰省ラッシュもかなり深刻です。

筆者

かつては連休に入るとソウルや釜山などの都市部は人口ががくんと減り、休業になるお店が多かったですが、近年は秋夕の間も営業を続けているお店も増えました。

日本のお盆と同様に、帰省しないという選択をする人も増え、更には2020年以降のコロナ禍で秋夕に帰省しない・帰省できない人も増え、少しずつ秋夕の伝統も形を変えつつあります。

女性にとっては重労働

家族が一堂に集まる大行事ですが、秋夕で伝統的に大活躍してきたのが一族の女性たちです。茶礼の準備や親戚への贈り物の準備、更には親戚全員分の食事の買い出しから用意までこなさなければいけないタスクがいっぱい。

更に韓国では秋夕は夫の実家に行く事が多いので、新婚のお嫁さんからしたらかなり過酷な行事です。

韓国では시어머니シオモニ(義母)や시아버지シアボジ(義父)に気を遣わなければいけない空間の事を陰で시월드シ ウォルドゥ(シworld)と呼びます。

筆者

夫の実家に泊まり、一番下っ端として他の一族の女性と一緒に台所に立って、大勢の食事を準備・片付けするだけでもかなりストレスだと思いますが、更にそこで料理の腕前を試されたり、餅を作らされては「あら上手!可愛い子供が生まれるわね」なんて言われたら相当なプレッシャーですよね。

妻だけ不参加という方法もありますが、「礼儀のなっていない嫁だ」と一族の風当たりも強く、結婚後の秋夕はなかなか気の重いイベントのようです。

名節で気を張って体を酷使した反動で無気力状態になってしまう명절후유증ミョンチョルフユジュン(名節後遺症)ということばも生まれました。

女性は秋夕の時期に自らの実家に帰れない場合が多く、かつては連休の前後で実家との中間ぐらいの場所で待ち合わせて、束の間の再会をする반보기パンボギと呼ばれる文化がありましたが、近年ではビデオチャットが主流になってきているので、秋夕に限らず好きな時に顔を見る事が出来るようになりました。

芸能人による秋夕の挨拶

冒頭で少し触れましたが、秋夕の時期になると韓服やスーツに身を包んだ正装の芸能人が추석 인사チュソク インサ(秋夕の挨拶)をする事も一般的になってきました。

内容としては「綺麗に輝く月を見て、皆さんの願いが叶いますように」「美味しいものをいっぱい食べてください」「家族水入らずで素敵な秋夕を過ごしてください」というファンの幸せと健康を祈るメッセージですが、こちらも去年以降はコロナ禍の影響で「マスクは必ず付けて」「今はビデオチャットで我慢しましょう」などのメッセージが加わる場合も増えました。

少しずつ変わりゆく秋夕

2021年の秋夕は5連休ですが、韓国でも毎日2,000人前後で新型コロナウィルスの感染者が増え続けている為、秋夕に集まれるのは最大8名まで(うち4名のワクチン接種済が条件)と規制がかけられています。

かつては帰らないと親不孝者だと後ろ指を指される風潮があった秋夕も、「帰省して感染拡大させてしまったら親不孝」という考え方に変わり、2年連続で帰省を見送る人も多いようです。

奇しくも結婚後の女性にとっては気の重い伝統から解き放たれている部分もあり、ウィズコロナの時代を経て今後、秋夕のあり方は少しずつ変わっていくのかも知れません。

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植竹 智裕

元・世界新聞ライター。旅人(訪問国はアジアを中心に現在31カ国) 韓国歴は2005年の初海外旅行からスタートし、2012年には釜山からソウルまでママチャリで縦断。 オーストラリアでのワーキングホリデー中、田舎町で日本人ただひとり、韓国人に囲まれて生活したおかげあって2019年に韓国語能力検定5級取得。

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